力とコントロールの物語 - パレスチナ紛争史

「迷宮」

図書館の棚で見かけて、なんとなく手に取ってみて、そのまま借りてしまいました。そういえば中東問題ってよく知らないや、って、ただそれだけの興味で手に取った本。偶然手に取ったにしてはとても分かりやすく興味を持って読める内容でした。
イスラエルがなぜパレスチナとケンカしているのか、アラファト議長ってそういえば何だっけな、とか。そういう基礎的なところがわかったような気がします。
要は、昔から虐げられていたユダヤ人民が切れて理想の国を建国したところ、思いのほか強い力を発揮してしまい、その影響でパレスチナ人民が追い出され、パレスチナが終わりなきテロの世界へと足を踏み入れた、という話がイスラエル-パレスチナ問題だということです。あと、イギリスの二枚舌も。
これまでに第三者が何度も何度も何度も努力を重ねて一定の仲直りをさせようとしてきたんだけれど、リーダー同士の思惑には相当ねじ曲がった背景が存在して、現在の混乱状態はなるべくしてなったのだな、という事がこの本を読むことで非常に良く伝わってきます。
こんなことを言うのは余りにも無神経なのだけれど、敢えて言いたい、「非常に面白い」と。リーダーというものがどのように力を手にいれるのか、時にはどの様に手に入れた力に振り回されていくのか、時間とともに状況が変化する多国間交渉において、それまでの最善手が完全な悪手に墜ちてしまうのはどういう時なのか、力を持つ国から武力で制圧されることで英雄となるとは、等々、数え上げればキリがありませんが、『パレスチナ紛争史』はこの様な興味深い事例のオンパレードです。特にアラファト議長の栄枯盛衰に関しては、おそらく誰が読んでも引き込まれることでしょう。
二国間の争いの物語は双方の視点から見た場合全く違ったものになり、何が正しくて何が間違っているのかを決めるのは一筋縄にはいきません。その点は著者も次のように述べています。

...それは、イスラエルからもパレスチナからも等距離に身を置くということである。実際に仕事をしてみると、これは極めて難しい。インティファーダが勃発した当初から、イスラエルは「アラファトが暴力を組織し、指示している」と非難し、パレスチナ自治政府は「イスラエルの占領に対する民衆の自主的な蜂起なので止めることは不可能」と主張した。つまり、日々の原稿を書く上で「衝突を止めようとしないアラファト議長」とするのか、「衝突を止められないアラファト議長」とするのか、どちらの主張を信じるのか態度を明確にせざるを得ないのである。

私は中東問題についてこの一冊しか読んだことは無いので強くは言えないのかもしれませんが、この著者が中立性を意識して書いているのだな、ということは十分に伝わってくる内容でした。余り理屈っぽくならず、非常に難しい問題を前提知識皆無の読者にも興味を持って読み進められるように記事を構成していった能力にはひたすら頭が下がりました。
当たり、の一冊です。

パレスチナ紛争史 (集英社新書)

パレスチナ紛争史 (集英社新書)